昨年から耳にするようになったティール組織。
本家を読まねばと思ってはいたのですが、厚みがすごい→積読しっ放しになりそうと感じ手つかずとなっていました。そんな折、これなら読めそうと購入したのが「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」(以下、本書)です。
今回読んだのはこっち↓
- 作者: フレデリック・ラルー,羽生田栄一,エティエンヌ・アペール,中埜博,遠藤政樹
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2018/11/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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こっち↓を「本家」と呼んでいます。
- 作者: フレデリック・ラルー,嘉村賢州,鈴木立哉
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2018/01/24
- メディア: 単行本
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ティール組織の関連本は他にも並んでいたのですが、
- 本家と同じ著者(フレデリック・ラルー)なので、解釈のズレは無いはず。
- ボリュームが大きすぎない。(200ページちょい、イラストも多い。)
- 「解説」というタイトルなので、わかりやすさを考慮しているはず。(アカデミックすぎると眠気が。。)
という期待感から選定した次第です。
(2019/03/25追記)
本家の誕生秘話をご紹介!!コミュニティによる浸透、最初に発見したのは実はこの方、などなど。日本で広めていただきありがとうございます、です。
こちらは裏話がリアルに描かれていて面白いです。
読後の感想
入門編としてちょうど良いと感じます。各組織モデルの特徴を説明するだけではなく、実際の会社の事例や、ティール組織を実現するためのプロセス、移行のヒントにも言及されており、本書だけでも必要最低限な知識が得られると思います。
組織モデルについて興味を持っていたこともあり、組織の移行モデルや特徴、問題点を整理することができたのも良かったです。
ティール組織では従来型組織の問題が改善されるのですが、では今すぐにティール組織を目指すべきか、という点ではまだしっくりきていません。(というか、まだ消化できていない。。)このあたりは後述したいと思います。
目次
- 【Part 0】イントロダクション ―この本はいわゆるマネジメントの本ではありません
- 【Part 1】私たちは、マネジメントについて新しいパラダイムを創り出すことができるでしょうか?
- 第1章 今日の組織はどこかが壊れている
- 【Part2】それでは、この新しいティール組織はどのようにしたらうまく働くのでしょうか?
- 第2章 新しいものの意味を理解するために、ある物語から始めましょう
- 第3章 ブレークスルー1 ―セルフマネジメント
- 第4章 ブレークスルー2 ―「全体性」を取り戻すための闘い
- 第5章 ブレークスルー3 ―常に進化する目的
- 【Part3】どうやったら新しい組織の世界にたどり着けるのでしょうか?
- 第6章 ティール組織を作るための条件
- 第7章 「CEO」の役割
ティール組織って?
組織モデルを分類し、それぞれにイメージの色がつけられています。ティール=青緑色で、本書の表紙の色がソレです。
カラー | タイプ | 特徴(ブレークスルー) | 代表的な組織 |
---|---|---|---|
レッド | 衝動型 | ・力による支配(トップダウン) ・仕事の分業 | マフィア、 ストリートギャング |
アンバー | 順応型 | ・不変で唯一のルール(再現可能なプロセス) ・ヒエラルキー型の組織(安定) | 軍隊、宗教組織 |
オレンジ | 達成型 | ・革新主義(仮説、進歩) ・説明責任(目標管理) ・実力主義 | 上場企業、 銀行 |
グリーン | 多元型 | ・合意形成による意思決定 ・権限の委譲 ・ステークホルダーの享受する価値を意識 | NPO、NGO、 社会的ベンチャー |
ティール | 進化型 | ・セルフマネジメント ・ホールネス ・常に進化する目的 | 事例; ・ビュートゾルフ ・FAVI |
突っ込んだ説明についてはこちらがわかりやすかったです。
ティール組織の3つの特徴
ティール組織と呼べる会社は実際にあるそうで、次の3要素の全て、もしくはいずれかの要素が高いレベルで実現されているとのこと。
1. セルフマネジメント
- 組織はフラットで(上司や管理者が不在)、階層的、官僚的なピラミッド構造をもたない。
- そこでは誰もが主体的に決定権を持つことができる。
- ただし、適切な意思決定プロセス(助言プロセス)をふむ必要がある。
セルフマネジメントを支える助言プロセスはとても興味深い仕組みだったので後述します。
2. ホールネス(全体性)
- 社員の本来の姿(全体)をさらけ出せること
パーソナルな部分を含めてお互いを理解し受け入れる土壌が必要であり、「ダイバーシティ」と概念が似ているかもしれません。
馴染みのある言葉としては、Googleが提唱する「心理的安全性」があります。
3. 常に進化する目的
「常に進化する目的」とは、組織がその目的に耳を傾けて、一緒に踊ることを意味します
本書より
存在意義を常に問いかけ(感知)、目的を変えていく(応答)、という考え方で、オレンジ組織の不変的なミッションステートメント(経営理念)に対して批判的です。
私はオレンジ組織に慣れきってしまっているので「本当にこれで企業が運営できるのか?」というのが第一印象でした。腑に落ちないけどかろうじて理解できる(以下)、というレベルです。
- 不変な価値観は存在しないので、企業の存在理由もその場、その時々で、動的に形成されるべき。
- 時代の変化を感じることができるのは基本的に現場の人間で、ピラミッド組織だとトップに情報があがるまでが遅すぎる。情報のロスもあり適切な判断ができない。
- セルフマネジメント化された各主体の意見や行動のベクトルに常に気を配り、全体としての存在意義を形成する。各主体もその存在意義に耳を傾け、自分たちの行動を内省する。というフィードバックのループ(=対話)が発生する。
この辺から、組織を生き物のように感じてきました。
助言プロセス
セルフマネジメントを実現する仕組みが「助言プロセス」で、「適切な判断」と「ナチュラルなヒエラルキー」を生み出します。MNS(Most ナルホド Sentence)がコレでした。
「助言プロセス」により、主体が異なれど判断の質が担保されます。また「助言」を求められた数を評価のための変数とすれば、過度ではない実力主義となり、相互に納得感のある評価が実現できるような。。
ナチュラルなヒエラルキーという言葉からは、勉強会などのイベントを開催しているエンジニアの方々を連想しました。どこかから権力を与えられたわけではないものの、デキるヒトというラベルが貼られる、というか。外部からの認知によって立ち位置が決まってくるという点で、自己ブランディングと通じるものがある気がします。
Slackとの相性(つぶやき)
助言プロセスを運営するにはどんな課題があるか、と一人ブレストしてみたのですが、「Slackと相性いいのでは?」と感じたのでメモ。
- 助言を求める相手(専門家)をどうやって探すか。
- 各チャンネルごとに「質問はこのメンバーに聞いてみるといいかも」とサジェストしてくれる機能がある。
- 助言を求めらる頻度をどうやって把握するか。
- ユーザにメンションが付いた数をカウントできそう。
- 助言数とイコールではないが、個人指名でのコミュニケーションが発生した数であり、ある程度の相関があるのではないか、と想像。
- 「決定」による影響を受ける人との対話
- パブリックなチャンネルで議論することで、影響を受ける人が等しく情報を得て、意見を述べる機会が与えられる。
報連相
話が脱線しますが、、、仕事を進めるテクニックに「報連相」がありますが、これは指示命令系統・縦のラインを意識した仕組みです。※あくまで私個人の認識です。
- 報告:上長からの「指示」に対する応答。指示と報告は対の関係でマスト。
- 相談:「指示」された内容を遂行するにあたり、何らかの障害やイレギュラーが発生した場合に進め方の判断を仰ぐこと。(こう進めて良いか?のOKをもらうこと含めて。)
- 連絡:これは単純な情報共有。(「指示」の文脈とは無関係。)
「指示」をした上長は、部下から「報告」を受ける義務、「相談」された場合に具体的な行動や方針を示す義務があります。同期や先輩などの横の繋がりへの「相談」は、受ける義務もないのに話を聞いてくれてありがとうございます!!な扱いです。
ピラミッド型組織では「報連相」さえ守れば理論上は100%仕事を完遂できます。指示の遂行に障害があれば上へ上へと相談がのぼり、最終的にはトップが何らかの決断を下す(べきな)ので、仕事が遂行できない状況は発生しないはず。あるとすればトップでは処理しきれないシチュエーションの発生で、まさにティール組織が生まれた背景と関連がありそうです。
ピラミッド型組織では報連相、フラットな組織では助言プロセス、という整理が、自分の中でしっくりきました。
ティール組織とエンジニアの共通点
本書の中で「ティール組織ではこういうことが起きる」と紹介された例に、エンジニアの考え方と近いものがありました。
- 競争の概念がない
- 利益追求ではなく、社会的貢献を組織の目的としている。
- よって目的を達成するためには競争相手という概念はない。それは友人、盟友であり、敵視する必要はない。
- エンジニアは、、、
- OSSの領域でお互いのプライベートな時間も割いて、より便利なものを協働でつくる。できたら無償で公開。
- 勉強会等で自社ノウハウを公開
※採用などの戦略として実施している企業はあると思います
- 「感受」→「応答」の進め方
- 複雑な社会では、数年先を確実に「予測」して完璧に「制御」するのは困難。
- まずはやってみて、状況を「感知」して適切に「応答」する、の繰り返し。
- 「20年先を見据えて、明日の計画を立てる」
- エンジニアは、、、
- アジャイル開発(そのまんま)
ティール組織とエンジニアは相性がいいのかも。
ティール組織を目指すべきか
組織の在り方として、ティール組織のエッセンスは取り入れていくべきと感じました。積極的に目指すべきと確信したわけではなく「実現しようにもすぐなれるものではないし、数年レベルの時間とエネルギーが必要だろうから、早くから着手して、反応を見て判断すればよいのでは」というやや消極的?な考えからです。
特に既存組織からの移行はかなりハードルが高いと思います。なんというか、ソフト面(マインド的)の示唆は豊富なのですが、ハード面(組織設計など)に関する情報は少なく(それがティール組織?)、両面をバランスよく移行していけるのかよくわからない、というのが正直な感想です。(まだまだインプット量と考察が足りていないです。。)
本家でティール組織の事例として唯一日本の企業として挙げられたオズビジョンさんのインタビュー記事を見つけたのですが、これがリアルだろうな、と。
ただ「ティール組織」に載ったことで誤解されがちなんですが、印象と実態は違っていて「Thanks Day」や「Good or New」をやったりして結果良い会社になった、と聞くとこの施策が凄く効果的で素晴らしいものであると思ってしまうんですけど、実態としては踏み絵だっただけで、この施策にアレルギー反応が無く会社に残った人が結果的にオズビジョンにマッチする人である、となっただけなんです。
また、勘違いしないようにしたいと思ったのは、(当然ですが)「組織(企業)を維持するためのビジネスモデルと両輪だろう」という点です。内部がうまく運営されたとしても、それだけでは資本主義な現代で組織を維持することが難しいでしょう。事例として上がっている企業のビジネスモデルも確認していきます。(本記事の末尾に追記していく予定。)
まとめ
- 「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」は、ティール組織を学ぶための入門書としてオススメ。
- あくまで入門編。コレ一冊でわかった気になるのは危険。
- ティール組織は、従来型の組織運営に疑問を感じている人に考え方のフレームワークを与えてくれる。
- エンジニアはティール組織との親和性が高そう。
関連情報(随時追記)
著者:フレデリック・ラルーの講演(日本語字幕つき)
ビュートゾルフ
本書でも取り上げられていたビュートゾルフについての記事です。
個人的なイメージですが、ティール組織の実現にはビジネスモデルとしての優秀さ(具体的には利益率)も欠かせないのか、と思っています。
とあり、まさに!
ソニックガーデン
「納品のない受託開発」として有名なソニックガーデンさん。自社ブログにティール組織との共通点をあげた記事がありました。(本書に関する書評も。)
「ティール組織」によると、3つの特徴すべてを備えた組織はないということだが、なかなかの適応度合いではないだろうか。とはいえ、私たちが経営をしてくるにあたってティール組織を参考にしてきたわけではない。そのため残念ながら、私たちソニックガーデンはティール組織の事例とは言えないと思う。
本書でも、既存の組織を変革するためにのヒントは与えられていますが、「正解は自分で考えるべき」というスタンスをとっています。(適切なレシピは無い、と。)なろうとしてなるものではなく、組織の在り方を考え抜いて実現したらティール組織っぽくなっていた、が正解なのかも。