何かの記事の引用として紹介されていた「権威と権力」を読みました。(何の記事だったか忘れてしまった。。)
他者にいうことをきかせるための方法として「権力」による強制、「権威」による依存、「理」による自主性を述べた書籍で、特に「権威」の仕組みや注意点が丁寧に説明されています。
タイトルにも登場する「権力」と「権威」、「いうことをきかせる原理」について、自分なりの整理を残しておこうと思います。
本書の概要
高校でクラス委員をつとめる A 君と、精神科医(筆者)の対話形式という形で話が進みます。
「皆が自分勝手でクラスがまとまらない」という A 君の嘆きに対して筆者が壁打ち役となり、権力や権威によるコントロールを定義しながら、本当に「まとまり」が必要なのかを一緒に考えるストーリーとなっています。
最後は「権力や権威によって人々がまとめられるのではなく、個々の判断・考えを認め合って調和する世界をユートピア(理想)として目指すべき」と結論されます。
(2020/01/28 追記)
筆者は、ユートピアを「見つめるべきものであって、たどりつくべきものではない」と位置づけています。
実現が困難で現実的ではない一面を認めており、絶対的なゴールとしておしつけることはできないが、それでも方向を示すものとして目を離すべきではない、という考えです。
目次は以下のとおりです。
- はじめに
- 第一章 失墜した権威
- 第二章 権威と権力
- 第三章 権威とは何か、権力とは何か
- 第四章 いうことをきく心理
- 第五章 判断と権威
- 第六章 日常の中で
- 第七章 説得の方法
- 第八章 権威と反権威
- 第九章 まとまりなき社会
- おわりに
権力とは
権力とは、組織内でのみ有効な強制力であり、指示・命令といった類の力です。
規則やルールという形で実像をもち、相手の外部から強制力をもって働きかけます。
権威とは
権威は「権威を感じる側の内部で生まれる『認識』」であり、それは知識格差から生まれるものとされています。
簡易な説明ですが、「私の知らない〇〇について詳しいあの人はすごい!」と感じることが「権威」の発生で、それは私の内部に存在するものです。
また知識格差は相対的なものなので、私が権威を感じている相手に対して、別の人も同様に権威を感じるとは限りません。
権威に関する注意点
権威に依存してしまうと、人は権威を感じる相手に判断を委ねてしまうと本書で述べられています。
そして、その性質を都合良く使うために権威的に振るまおうとする人が出てきます。特徴として「お前は何もわかってない」という態度・発言をしたり、情報を制限する(知らせない)ことで、強制的に「無知」を認識させる行為をとるようです。
これに対して筆者は「自分の無知は、相手の全知全能の証明ではない」と注意しています。権威を感じること自体は素直に受け入れつつ、健全に疑う姿勢が大事なのかな、と思います。
いうことをきかせる原理
「いうことをきかせる(以下、説得)」=「自分がいいと思うことを、相手にやらせる」と定義し、以下の3つの要素が紹介されています。
- 「権力」による説得
- 「権威」による説得
- 「理」による説得
「権力」による説得は、組織内のルールとして服従を求める方法で、トップダウン的な指示命令が該当します。 「説得」というニュアンスはほとんど含まれない気もします。。
「権威」による説得は、権威(を感じている相手)に判断を委ねさせる方法です。 説得を試みている人の権威が通用しない場合には、「〇〇さんもそう言っているから」と他人の権威を持ち込む方法、「これが当たり前だから」と常識の権威を持ち込む方法があります。
「理」による説得は、「やったほうがいい理由」と「やらないほうがいい理由」を提示して相手に判断を任せる方法です。 納得感が高くなるため、この方法が理想であるとしています。 ただし、知識不足で判断をくだせない人や、権威しか信じない人に対しては、「理」による説得が効果的でない場合もあります。
実際に説得をするときには「権力」と「権威」が重なり合った状態で作用します。さらに「理」が提示される場合には、3つの要素が説得相手の判断に影響を与えます。
権威に頼らない説得と HRT
「説得する側」がコントロールできる要素は「権力」と「理」です。「権威的な振る舞い」は不健全なので、意図的に使うべきではないと考えます。(もし感じていただいているのであれば光栄です、ぐらいに。)
本書のなかで「権威は権力を包むもの」と説明されており、権威なき説得の場合には権力がむき出しの状態となってしまいます。権力は外部からの強制力であり、受け手のモチベーションや自主性にネガティブな影響を与えがちです。
権力での統制として官僚制がありますが、こちらの記事で紹介されている「官僚性の逆機能」はまさにその通りだなと感じますので、権力が前面に出るのは好ましくないように思います。
権威に代わるものがないかと考えたときに、 Google の文化で知られる HRT の精神を思い出しました。
コラボレーションの涅槃に到達するには、ソーシャルスキルの「三本柱」を身につける必要がある。 この三本柱は、人間関係を円滑にするだけでなく、健全な対話とコミュニケーションの基盤となるものだ。
謙虚(Humility)
世界の中心は君ではない。君は全知全能ではないし、絶対に正しいわけでもない。常に自分を改善していこう。
尊敬(Respect)
一緒に働く人のことを心から思いやろう。相手を1人の人間として扱い、その能力や功績を高く評価しよう。
信頼(Trust)
自分以外の人は有能であり、正しいことをすると信じよう。そうすれば、仕事を任せることができる。
この3つを合わせて「HRT」と呼びたい。読み方は「ハート」だ。痛みを軽減するものだから、苦痛の「hurt」ではなく、心の「heart」である。ぼくたちの主張は、この三本柱で成り立っている。
あらゆる人間関係の衝突は、謙虚・尊敬・信頼の欠如によるものだ。
『Team Geek』p.15より
HRT は自分でコントロールすることができるので、権威ではなく HRT の精神で権力を包むことで健全な説得が可能になるように思います。
また「理」の説得では対立(≠敵対。ここ大事。)する意見がでてきて当然なので、そのような場合にも権力でおさえつけるのではなく、 HRT な対話で調整すべきと感じます。
まとめ
- 「権威と権力」を読んだ
- 説得には3種類の原理があることを理解した
- 「権力」による説得
- 「権威」による説得
- 「理」による説得
- HRT の精神が説得時に良い効果を与えてくれそう
「人間関係が大事」という当たり前のところに行き着いたのですが、背後の過程を言語化することですっきりしましたし、 HRT の大切さを改めて理解することができました。
参考にさせていただいた HRT 関連の記事を紹介させていただきます。
まだ 「 Team Geek 」を読めていないので、これを機に読まねば!という気持ちになりました。
Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか
- 作者:Brian W. Fitzpatrick,Ben Collins-Sussman
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2013/07/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
先回りでこちらの書評を読ませていただき、さらに読まねば!!という気持ちになりました。 blog.toshimaru.net